アンチテーゼを振りかざせ
……駄目だ。
まだ夕方だけど
気持ちがモヤモヤするし、もうビール飲みたい。
明日も休みだし、こんな時間から飲む優越感に浸るのもたまには良いかもしれない。
そう考えた私は、そのまま最寄りのコンビニへと向かう。
もう夜ご飯も適当に買ってしまおうと心に決めて入口を目指していると、
「……あ、今日は清楚つくりこんでる。」
予期しない声が届いて、ピタリと足が止まった。
見向いた先の、やはり目に慣れないアッシュ。
こんな風にまだ明るいうちにそれを目撃するのは初めてで、暗闇で見るのとはまた印象が違って見えた。
色味の少ないシンプルな私服姿の男は、オーバーサイズのパーカーのポケットに手を突っ込んだまま近付いてくる。
「……なんで居るの。」
「最近入ったバイトの新人が、飛んじゃってさ。
急遽駆り出された。今から出勤するとこ。」
___油断した。
大体は深夜にシフトに入っている男に、今日遭遇することは予期していなかった。
…分かっていたら、絶対近づかなかったのに。
「紬。」
「名前で呼ばないで。」
「…今更?」
私の発言の棘をゆるく避ける男は何が楽しいのか、そう言ってクツリと笑う。
そのまま一歩、またこちらへ近づいてこようとするので
「…近づかないで。」
そう睨みを利かせて言いながら、後ずさって距離を取る。
「今日は要求が多いな。機嫌悪い?」
"____紬、やっぱ隙があるな。"
この男は私に何をしたのか、
あの日のことをもう忘れているのだろうか。
平然と何故、話しかけてこられるのか分からない。
顰めっ面のままに「自分の胸に手当てて聞いてみたら。」と低く言っても、ただ口角を上げてかわされてしまう。