アンチテーゼを振りかざせ
この男にとって、なんでもない気まぐれな行動に過ぎないのだとは分かっていたけど。
まさに"奪われた"という表現がぴったりのあれについて、私はこの男を殴る権利が本当はあると思う。
それでも、もう全てに馬鹿馬鹿しくなった私は、とりあえずコンビニへ行くのは諦めようと、その場に男を置いて足の向きを変えた。
何も告げることなくそのまま歩き出せば、
「___紬。
あの時の質問、答えてもらって無いけど?」
結局呼び捨てを貫いてくれる男の発言が背中に届く。
意図が分からず、だけど挑発的な声色に思わず、険しい顔のままに振り向いてしまった。
その拍子に、冬が近づく乾いた風がアッシュをふわりと揺らして、それさえも私の反応を楽しんでるように思えた。
そして三白眼を愉快に細めた男は、形の良い唇を徐に動かす。
「___"ドキドキした?"」
「、」
"ドキドキした?それもう俺のこと好きだよ。"
「……してない。」
するわけが、無い。
駅前で買ったパンの袋を持つ手に力がこもったのは気の所為だし、私はこの男に翻弄されたりしない。
想像以上に低く硬い声で漏らした否定さえお見通しのように、楽しそうに笑う男は「素直じゃ無い。」とふざけた感想を呟く。