アンチテーゼを振りかざせ
いつまで経っても、受け取ろうとせずに俯いたままの私に
「……紬、どうした。」
男は、先程までとは全く違う声でそう尋ねてくる。
いつもふざけた態度のくせに、違和感を察知する能力に謎に長けていて、それになんだか腹が立つ。
「…なにが。」
「絶対、なんかあっただろ。」
「……、」
"あの日"。
淡々と、的確に正確に。
いつも膨大な量の仕事を、そんな風に捌くことを最優先してきた筈なのに。
プロジェクトチームに入って、今まで仕事をしていて感じたことのなかった気持ちを知ってしまった私は、委員会で自らリーフレットの内容について発案をした。
初めて、自分の本心を仕事で晒した瞬間だった。
無事に発刊されて、
その内容に、枡川さん達だって喜んでくれたけど。
__"向こうはお金貰ってんだから、やって当然でしょう?
社内でリニューアルに関して、こんな風に上手く連携取られて無いのに、他社との美談書く前に他にやることあるだろ。"
___あんな風に言われたなんて、
絶対、彼女達には知られたくない。
"保城ちゃん。まだ、諦めないで。"
無理だよ、ほむさん。
「楽しい」だけで、仕事をできることなんて無い。
そして、そうするべきじゃないと。
今日、痛いほどに思い知った。
あんな風に、他の人に頭を下げさせるくらいなら。
「……いい、」
「え?」
「…私は、
もうずっと"カルピスサワー"で良い…っ、」
恋愛でも、仕事でも。
自分の意見を、自分の本当を、晒したりしたら。
____受ける痛みも、きっと大きくなり過ぎる。
震える声で告げたセリフの意味は、
きっとこの男にしか伝わらない。
その途端に何故だかぼろぼろと洪水のように溢れた涙を必死に拭って、「だからクーポンは要らない」と断ろうとした。