アンチテーゼを振りかざせ
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仕事を終えて、最寄駅に着く頃にはすっかり辺りは暗くなっていた。
今日は、課長へのことを含めて気が張っていたのか、見慣れた景色の中に自分がやっと帰って来たと思うと、ずしん、と疲労を実感する。
お気に入りのパンプスでゆっくりと足を進めながら、香月さんとの給湯室の会話を思い出す。
「…また、笠下たちが飲みたいって。行こう。」
「是非。」
「この間はあいつらが話してばっかりだったから。
保城の話も聞く。」
「…そうですね。私もそれなりに話題持ってますよ。」
「そうなの?それは聞かないと。」
香月さんはそう言って、手にしていたコーヒーカップに口付ける。
「…香月さんの後輩に振られた話とか。」
「、ごほっ!」
私が告げた瞬間、目の前の彼は盛大にむせた。
そして整った顔を崩して、驚いたようにこちらを見る。
予想していたより大きな反応に、私は声を出して笑ってしまった。
「…突然ぶっこむね。」
「すいません。でも、ご存知だったでしょう?」
この人が、瀬尾さんと枡川さんのこと凄く好きなのは、側から見ていて分かる。
そして人の気持ちを察知する能力の高さから考えても、私の感情に気付いてなかったとは思えない。
私の問いかけに、彼の困ったような表情は肯定を物語る。
「……大丈夫ですよ。
___多分もう、笑って話せます。」
「…そう。
じゃあその話聞く時は多分、
保城もビールの方が良いな。」
「……、」
彼の提案に、今度は私が驚いた顔をすると先程の仕返しかのように悪戯に微笑まれた。
それにも気付かれてたとは、思わなかった。
やっぱり、私の周りには厄介な上司が多い。