アンチテーゼを振りかざせ



その後、私達を見つけた笠下さんに

「え、飲み!?今日行く!?」

と誘ってもらったけれど、私は何故だか頭をチラつくことのせいで、それは延期してもらった。





駅から暫く歩いて、辿り着く場所。

暗さを気にも留めない容赦無い光りを放つ建物に近づくと、中は沢山の人が居た。

定時であがれた日は、きっと同じような時間に帰ってきた社会人が夕食や晩酌の調達をしていて混んでいることが多い。


入り口へ足を踏み入れると、自動ドアが開くのと同時に賑やかしい音が鳴り響く。

3台並ぶレジの1番端で、慣れた手つきでそれを捌く男に視線が留まった。


照明の光が反射して、やけにアッシュの髪が眩しい。

列を成すお客さんへの対応に集中しているのか、男は私が入店したことに気づいてない。




なんとなくその様子を観察してしまった私は、ハッと意識を戻して飲料コーナーへ向かう。

自分では絶対買わない、炭酸飲料のペットボトルを棚から一本取り出し、レジへと向かった。






そうして、自分のお会計が回ってきた時。

「いらっしゃいませ。」と告げて視線を上げた男は、目の前に立つ私に気付いて、三白眼を2、3度瞬いた。


なんだか気まずくなって、ちょっと大きめの音でどん、とカウンターに持っていたジュースを置く。



「…レジ袋ご利用ですか。」

その様子を見て、ふ、と笑った男はレジを操作しながら尋ねてきた。

「要らないです。」

「ポイントカードお持ちですか。」

「持ってます。お願いします。」

「お支払い方法は?」

「Suicaでお願いします。」


把握しきった流れでお会計を終えた私は、今購入したばかりのジュースを男の方へ、差し出した。


「……"助けてくれてありがとう"代。」
 
そして小さな呟きを落とすけど、男の顔は見れない。


「……くれんの?」

「うん。」


そっぽ向いたまま頷くと、目の前の男は、ふーん、と感情が掴みにくい声で確かめるように言った。




「…紬。」

「なに。」

後ろで、きっとまだ並んで待っているお客さんが居る。

なかなか受け取らないそれに、自分の行動も相まって羞恥で顔が赤くなる感覚がある。


< 90 / 203 >

この作品をシェア

pagetop