アンチテーゼを振りかざせ
「早く受け取ってよ」と言ってやろうかと痺れを切らして顔を上げると、やけに優しく細まった瞳と視線が交わった。
「……紬さあ、営業妨害やめて。」
「…は?」
「集中力が切れる。」
男の話が掴めなくて眉を顰めると、溜息を落とした男はやっぱり甘く微笑む。
「こんなことされて、触りたくなる。」
「…なんの話?」
彫りの深いパーツが並ぶこの顔は、あまり見つめているとダメな気がする。
チカチカ、くらくら、してきてしまう。
そう思うのに視線を外せないでいる私に、男は口を開いた。
「____紬に、キスしたいって話?」
「………は、」
告げられたそれに小さく言葉を漏らして、私はそのまま目を見開いて固まってしまった。
この男は、突然、何を言ってるの。
「俺、今日の休憩21時くらい。
会いに来て。」
その後も、スルスルと自分勝手な要求ばかりを流れるように言う男に、返す言葉が見つからない。
そのくせに、簡単に顔に熱が集まっていくことには嫌でも気づいている。
「……あんた、何言ってんの…、」
「当然のこと言った。じゃあ、また後で。」
最後は言い逃げのように微笑んで告げて、そのまま「お待たせしました」と、私の後ろに並ぶお客さんに声をかけた。