アンチテーゼを振りかざせ

◻︎


「…っ、痛い。」


走って自分の部屋まで帰ってきた私は、とりあえず着替えるためにリビングへ向かおうとして、キッチンの側に置いてあるワゴンのキャスターに思い切り左足の小指を強打した。


鈍く響く痛みに蹲み込んで感想を呟くと、心臓の拍が絶えず大きく鳴り続けていることも分かってしまった。





「………なんなの…、」

そのまま吐き出された頼りない言葉は、多量に困惑の色が乗せられている。



あの男の言ってることがもう、規格外過ぎてどうしたらいいのか。



あんな奴に出会ったことが無い。


だって今まで

「あ、この人はきっと私を好きになってくれる」

それを把握した状態での恋愛しか、私は知らない。




甘い言葉をくれる人も中には居たけど、


"____紬に、キスしたいって話?"



予期しないタイミング、

あまりに直球な言葉、


自分の手に収まり切らぬそれらに、心が掻き乱されてしまいそうになる。




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