アンチテーゼを振りかざせ
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「……保城さん?」
「え?」
「大丈夫?ぼーっとしてたけど。」
「…ごめんなさい、大丈夫です。」
"あの日"から、1週間。
リーフレットの作成について話が纏まって、仕事は漸く落ち着きを取り戻してきた。
その現状を伝えると、
《じゃあご飯行こう。労わせて。》
そうメッセージをくれたのは、私の目の前で柔らかく笑う南雲さん。
チャコールグレーの薄手のニット姿の彼は、笑うと垂れめがちの瞳がより優しく細まって、癒しオーラたっぷりだ。
歳上だけど、やけに心がホッとする人だなあと思う。
毒気の全くない雰囲気に釣られるように笑うと、
「良かった、仕事疲れすぎてるのかと思った。」
とやっぱり柔らかく微笑む。
「…ずっと、疲れてたんですけどね。」
「過去形なの?」
「勿論今も、しんどいですけど。
でも、それだけじゃ無いこともあるって最近知りました。
…南雲さんの同僚の方々に感化されたと思います、確実に。」
長過ぎる手紙をくれた彼女を思い出すと、やはり勝手に口角は上がって。
そんな私を見た彼は「枡川たち、良い仕事するじゃん。」とちょっと照れ臭そうに呟いた。
創作居酒屋の半個室に通されたばかりの私たちは、まだ飲み物さえ、注文していない。
メニューを手にしながら「お腹すいたなー」と呟く彼は、あどけない子どものようだった。
お店どうしましょうか、そうこちらから尋ねる前にいくつか候補を提案してくれて、決まったと思ったら予約もいつの間にか済ませた彼に、口を挟む隙は無かった。
あまりに優しくて馴染みやすいオーラで忘れそうになるけど、大人らしいスマートさを嫌味なく兼ね備えている。