アンチテーゼを振りかざせ
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22時をちょっと過ぎた頃。
電車を降りて最寄駅のいつもの北口を抜けると、見慣れた変化の無い景色が広がっている。
マンションへと続く車道に沿った道をぶらぶらと進みながらスマホでSNSを無意識に巡回していると、メッセージの通知バナーが上部から降ってきた。
《もう家に着いた?》
メッセージは、先程まで出会っていた南雲さんからだった。
《今、駅に着いたところです。でも家はすぐ近くなので。
今日はご馳走になってしまってすみません。》
労うって言ったよ、と笑う彼は私がお財布を出すことを最後まで許してくれなかった。
それに対するお礼を送ると、急に画面が【着信中】に切り替わって、手の中でスマホが震えた。
驚きつつ、直ぐに応答ボタンを押すと、
「……もしもし?」
"あ、もしもし。ごめん電話したりして。"
鼓膜を震わせるのはやはり、先程まで一緒にいた彼の声だ。
「いえ、どうかされましたか?」
"あー、うん。あのさ。"
「…はい、なんでしょう。」
"さっき帰り際、言えなかったから。
LINEでも良いけど、やっぱり電話かなって思って。"
「…はい…?」
"あのね、保城さん。
俺は、保城さんのことめっちゃ気になってる。"
「、」
電話をとってから、進みがおざなりになっていた足が完全に止まった。
突然の彼の言葉に、驚きで自分の目が開くのが分かる。
"合コンの時から可愛らしいなって思ってたけど。
仕事頑張ってるとこも、俺の仕事仲間を大事にしてくれてるとこも良いなって今日改めて思った。"
あまりにも、直球。
緩急なんて全く微塵もない、心に鋭く刺さるスピードの言葉だけが届く。
"……だから、俺はまた保城さんをご飯に誘いたいって思う。"
「………南雲さん。」
"でも迷惑だなって今、既に思ってるならちゃんと引く。
保城さんの負担になるようなこと続けたりしたら、枡川達に怒られそうだし。"
笑いを含んだ穏やかな声は、静かな夜にぴったり寄り添うように耳に届く。
それを聞いている私は、スマホを握る手に力がこもった。
はやく、何か言わないと。
でも、焦りが余計に言葉を頭から奪っていく。
不自然な沈黙が数秒続いた時、
"保城さん。
その迷いに、まだ甘えて良い?"
「……え?」
"どうしようかなって悩んでくれる余地があるなら、俺はまだ、引きたくは無い。"
「どっちだよって感じだよなあ」と、やはり笑い声のままに言う彼の真っ直ぐな優しさ。
今の私には、そぐわない。