―17段目の恋― あのときの君とまさかの恋に落ちるとき
素人のテニスラケットのガットには、ボールがガットに当たった際の振動を止める振動止めがついている、ということを透子は初めて知った。ギターのピックのような小さいやつだ。これがなぜかレッスン中にすぐ飛んでいってしまう。ほかの人の振動止めがすっ飛んでいるのを見ることはないのに、透子はレッスン中に1回は振動止めを飛ばしてしまう。
ラケットを買ったときにおまけでついてきたものだから落ちやすいのか、とも思ったが、同じものを使っている人がいて、その人の振動止めが飛んだことはない。
当たりが、ようするに打ち方が悪いせいだろう。

この日もレッスン開始から30分で、気づけばラケットから振動止めが消えていた。
目立つ黄色の振動止めなのに、きょろきょろ辺りを見回しても見つからなかった。

「もしかしてこれ?」
振り返ると2面のコートの間に下ろされたネットの仕切りの向こう側からいずみコーチが黄色い振動止めを見せている。

「あ、そうです」

お互い仕切りのネットに駆け寄り、いずみコーチがひし形の網の目から振動止めを差し出した。
振動止めを受け取とるときに、かすかにいずみコーチの指先に触れた。慌てて手を引きお礼を言うと、泉コーチがにこっと笑った。
この“にこっ”が、多くのおば様方の心をキュンキュンさせるんだろうな、などと納得していたら、「おい、何くつろいでんだ!」と、後方から龍道コーチの怒声が響いた。
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