エリートな彼の好きな女 ~ウブな秘書は恋愛をしたくないのです~
電車でいつもの街に戻ってくると、急に現実に引き戻された感じがする。
どんだけ楽しんでたんだ、私。
社長は私のアパートまで送ってくれて、最後まで完璧なんだもの。
「今日はありがとうございました。 楽しかったです」
「良かった。 俺も楽しかったよ」
「では、また月曜日に」
頭を下げて踵を返そうすると、社長がどことなく甘美な声で私を呼ぶ。
「陽葵」
振り返ると、少し困ったように眉を下げた社長が私を見据えている。
「なんですか、春希さん」
きょとんとしていると、社長はよくわからないことを言うのだ。
「俺、酔ってるかもしれない」
次の瞬間、距離が一歩縮まったと思ったが最後、柔らかくて温かい唇が、私のそれに優しく触れた。
「陽葵の唇、いいな」
キス……された…?
完全に不意をつかれたから、目は瞑らなかった。
距離も、ダイレクトに伝わる感触も、本物だった。
社長の唇だった。
「なに…を……」
まるで美味しいものを食べたみたいな顔をする社長を黙って見つめ続ける。
嬉しい?悲しい?怒り?
そのどれともつかない感情で、ただただ硬直していた。
社長は何を持って私にキスをしたのだろう。
彼の考えていることなんて、一生分からない気がした。