エリートな彼の好きな女 ~ウブな秘書は恋愛をしたくないのです~
館内は外見より広く感じた。
私たちは中居さんの案内の下、庭園を眺められる長い廊下を進む。
通されたのは個室で、畳の匂いが心地いい。

料理を注文して中居さんが出ていくと、部屋には二人きり。
私はなんだかいたたまれないけれど、社長は平然としている。
なんだか悔しくなってくる。
キスなんてしておいて、意識しているのは私だけなんて。

「陽葵」

社長が私を呼ぶ声は、いつも優しい。
そんな小さなことでも過剰になっている自分に驚く。

「キスは嫌だったか」

ま、まさか、そんなストレートにその話題を出されるとは思ってもみなかった。
私は狼狽する。 否定も肯定もできない。 というか、肯定はしたくなかった。
決して嫌とは思わなかったから。
だからといって否定でもしたら、それはもう告白同然なんじゃないか。
キスをされてもいいです。 嬉しいです。 って意味になってしまう。

「もうしないよ」

「え…」

心做しか寂しげで、それでいてはっきりと言われた言葉に思わず顔を上げてしまう。
そんなこと言わないでって言ってるようなものだ。

「陽葵は面白いな。 見ていて飽きないよ」

くすくすと楽しそうに笑う。
からかわれた…。

「今ので、陽葵は俺を男として意識しているかどうかはっきりした。 隙あらば、キスでもハグでもさせてもらうよ」

ぶわっと全身が熱くなるのがわかる。
キスやハグを隙あらば…?
そういうのって、恋人同士がするものじゃないの?
わからないよ。 モテる人は言うこともやることも一般人とは違うってことなのかなあ。
社長、難しすぎます。
境界線がわからなくて、モヤモヤします。
社長は私のことが好きなんですか?
それともただの気まぐれですか。

私はあなたが、どうしたってわかりません!


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