エリートな彼の好きな女 ~ウブな秘書は恋愛をしたくないのです~



「相良、今日はありがとう。 とても美味しかったよ」

「本当? 良かった。 でも、こんなので許されることじゃないよ。 何かあったらいつでも言って。 私にできることならなんでもするから 」

「……本当になんでもしてくれるの?」

「うん。 だってそれだけのことをしたんだもの」

本当にこんなのじゃ足りないくらい。
あんなこと言われて気を悪くしないはずないもの。
岩倉くんだから大事にならなかっただけで、下手したら訴えられてもおかしくないはず。

「そう…だよな」

岩倉くんの声のトーンが急に下がった。
今になって怒れてきたのかもしれない。
社長に言われたこと。

「相良はさ、隙だらけだよな」

「えぇ…? そんなこと――」

「あるんだよ。 社長サンがあんな風に心配するのも無理ないと、俺は思うけど」


岩倉くんが私に、一歩近づく。
私は反射的に一歩退いた。
彼の雰囲気がピリッとしたものに変わったのを、本能的に察知していたのかもしれない。

「相良。 なんでも、してくれるんだよな?」

息が詰まりそうになる。
なんで…? 頷けない。
念を押すように言われて、肯定するのを体が拒否している。

「いわ…くら……くん…?」

じりじりと迫ってくる彼から逃げるように後ずさり、あっという間に私の行き場は無くなった。
彼との距離もない。
岩倉くんは目の色を変えて、私の両腕を掴みあげた。

「い、たい……岩倉く、離して!」

「相良、俺がキスしても何も言えないよ? 何でもするって言ったの、君だからね」

「嫌、やめて…ねぇ、岩倉くん! どうしてこんなことするの――」

力いっぱい抵抗しているのに彼はびくともしない。

「そんな弱い力で俺から逃げられるわけないでしょ。 諦めて大人しくしてくれないかな」

岩倉くんの口調だけがそのままで、表情はもう別人だった。
こんな人、知らない。 本当に知らない人といるようだった。

「嫌よ! やめて、離して! 変なこと考えないで、目を覚まして!」

「目を覚ます? 笑わせるな。 俺は今興奮しているよ。 君のその怯えた顔、堪らないね」
< 32 / 87 >

この作品をシェア

pagetop