エリートな彼の好きな女 ~ウブな秘書は恋愛をしたくないのです~

「怪我、してるじゃないか」

「あ……」

社長が私の手首を見て言う。
強く掴まれたのと、無理やり抜け出したので赤くなっている。
こんなの、怪我って程じゃないと思うんだけど。

「こっち来て」

「…スーツ、汚しちゃった……」

「陽葵の涙だろ。 光栄だね」

スーツに大きくついた涙の跡を見て茶化すように言うので、思わず笑いがこぼれた。
それから私をソファに座らせると、ラックから救急箱を取り出してくる。

「そういえば、そんなのありましたね」

「使う機会が来るとは思わなかったな」


社長は不器用で、何度もやり直しながら包帯を巻いてくれた。
大袈裟だと言ったけど、痛々しくて見てられないからと半ば強引に。
巻き終わってから社長ははっとしたように、『こういうのって、冷やしたほうがいいんだっけ』と青ざめるのだ。
すごく真剣な社長には悪いけれど笑ってしまった。

結局、医務室から氷を貰ってきて包帯の上から当ててくれた。

「最初から医務室に連れていけばよかった」

「いえ…。 ありがとうございます」

社長は頬を弛めて微笑む。

「帰るか。 送ってく」

「え、大丈夫ですよ。 社長は電車使わないでしょう」

彼は会社から徒歩十分のマンションに住んでいる。
電車で三駅先の我が家までわざわざ来てもらうのは……。

「今日は送らせて」

社長は少し眉を下げて言ってくる。
私はお言葉に甘えることにした。
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