エリートな彼の好きな女 ~ウブな秘書は恋愛をしたくないのです~
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駅に着いた私は、ある重大なことに気がついた。
「…私、何も持ってない……!」
そうだ。 岩倉くんに向かって投げたんだ。
スマホも財布も入ったバッグを!
社長は一瞬変な顔をして、言われてみればと手ぶらの私を凝視する。
「その……岩倉くんの顔面に投げたんです。 バッグ……そのまま逃げてきちゃって」
「陽葵……なかなかやるな」
真顔でそんなことを言われ、かあっと顔が熱くなる。
逞しいって思ってくれればいいんだけど、乱暴な女だと思われたらどうしよう。
「とりあえず、警察に行こう。 もしかしたら届けられてるかもしれない」
「あ、はい。 そうですね。 でも、社長にこれ以上迷惑かけるわけにはいきません。 私ひとりで行ってきますから――」
「社長じゃなかったらいいだろ」
それは…つまり、プライベートということ?
なんだかますます申し訳ないのだけど……。
社長は着いてくる気満々だ。
うん。 着いてきてもらおう。
警察署に一人で行くの、実はちょっと怖かったんだよね。 悪いことしてないのに、悪いことした気分になるというか。
「ありがとうございます。 春希さん」