エリートな彼の好きな女 ~ウブな秘書は恋愛をしたくないのです~
「そう騒ぐなよ。 落ち着け」
この状況で落ち着けって無理がありません?
私、社長に部屋に連れ込まれちゃったよ!
「ほら、水。 ウォーターサーバーのだ。 美味いぞ」
「あ、い、いただきます」
玄関先で突っ立ったままの私に水を提供してくれる。
とりあえずごくごくと一気に飲み干し、あ。
落ち着きはとり戻ってきた。
「次、靴を脱いで。 上がって」
「っ……」
あぁぁぁ。 もう引き返せない。
だってこの人、帰す気ないもん。
引っかかった私が全面的に悪いのだ。
ええい! もう知らない!
どうにでもなれ!!
「お邪魔します……」
観念したように呟くと、しっかり拾った社長が悪戯っぽく微笑んだ。
「いや、正直な話。 陽葵を一人にするのは不安だったんだよ」
「心配が過ぎます。 子供じゃないんだから」
ただいま社長宅のダイニングテーブルにて、弁明という名の言い訳を聞いております。
私も悪いのは否定しない。
しないけど、騙すなんて卑怯じゃない。
「ここならセキュリティはバッチリだし、万が一の時も俺が守れる。 携帯も無くしてるから何かあったら連絡してとも言えないじゃないか」
ご最もです。
返す言葉もございません。 が!
「いくらなんでも、嘘は酷くないですか! ちゃんと言ってくれれば――」
「俺の家に泊まれと言ってはい分かったって着いてきたか? あと、嘘ではない。 金は取らないって言ってるだろ。 タダだよ」
私、身をもって知った。
タダより怖いものはないって!!
しかも社長の言うことは何故か正論に聞こえるんだもん。
強引で手荒なのに、今日寝る場所が見つかった安心感も拭いきれない私が逃げ出すのを阻止する!
「春希さん、たまに強引ですよね。 相手を上手く誘惑して罠にはめるのが得意な獣みたい」
いつもはだいたい適当でふわふわしてるのに。
「人聞きの悪いこと言うな。 俺だってやる時はやる」
今これ、やる時じゃないと思うんですけどね。
言っても無駄だと思うのでそれは言わないでおきますけど。