エリートな彼の好きな女 ~ウブな秘書は恋愛をしたくないのです~


「さ。 風呂に入ってもう寝よう。疲れただろう。 明日の朝ごはんあったかな」

パッと私から離れた社長はぶつぶつ言いながらキッチンに入っていった。

「しまった。 冷蔵庫、空っぽだった」

しばらく冷蔵庫の中を眺めてポツリと呟く。

「悪い。 買いに行ってくる」

「あ、私も行きます!」

財布を手に出ていこうとする彼に思い切って言ってみる。
社長は一瞬驚いた顔をしたけれど、すぐに表情を弛めて頷いてくれた。
良かった。 買い物くらい一人で行かせろとか言われなくて。

パタパタと廊下に出て部屋を振り返り、改めて思う。
こんな広すぎる部屋に一人取り残されたら落ち着けないもの。
それに、主が不在だといたたまれない。
仕事をしていないと時々忘れそうになるけれど、彼は大企業のトップ、鴻上春希なのだ。
こう、物理的に、お金に余裕がありまくりなのを見ると圧倒される。


私たちは根本的に、住む世界が違うんだなぁ、と。





やってきたのは近所のコンビニだ。

「陽葵はいつも、朝何食べるの?」

「お米と、卵料理は食べるようにしてます」

「目玉焼きとか?」

「そうですねぇ。 ちょっと余裕がある時は、溶いてスクランブルエッグとか。 ハムもつけたり」

私の中でスクランブルエッグは余裕がある時のメニューなのだ。
目玉焼きならフライパンに直で割るだけだけど、スクランブルエッグはボウルとお箸を使って卵を溶かなきゃいけないじゃない。
洗い物も増えるし何より面倒くさい。
朝は眠いし、なるべく労力を使いたくないもの。
ズボラな自覚アリです。

「じゃあ、明日は目玉焼きとハムだな」

「春希さんもご飯派ですか?」

「俺はどっちでも。 気分によって決めるかな」

なるほどねぇ。 私もたまーに、どうしてもパンを食べたくなる時がある。
そういう時は、お昼用にパンを買って出社する。

スーパーに売っている半分くらいの量の卵を手に取る社長の横で、はっと思い至る。

「朝食、私に作らせてください!」

「え? 悪いよ。俺がやるよ」

「いえ、春希さんにはお世話になりっぱなしなので、それくらいは」

これくらいお易い御用…というか、ぜひ任されたい。
やられっぱなし感が否めないもん。
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