エリートな彼の好きな女 ~ウブな秘書は恋愛をしたくないのです~
私たちは会社を出た。
そこには黒の高級車と思しき乗り物がでーんと構えていて、お母様は躊躇なくそれに乗り込む。
うっわぁ。 黒の車をバックに真っ赤なジャケット姿のお母様……!!
大迫力だわ!
「ほら、陽葵さんも乗って。 住所を教えてくだされば彼が連れていってくれるわ」
私、徒歩でのんびりお散歩しながら行くつもりだったんだけど、よく考えたら有り得ないよね!?
なんてったって鴻上グループの奥方なんだから!
「失礼致します」
恐る恐る後部座席に乗ると、ベッドやソファと互角のシートに身が沈まる。
すごい。 中まで高級感溢れてる…!
私は運転手さんに行き先を伝え、暫くぼうっと見惚れていた。
「到着致しました」
あっという間にケーキ屋に着いてしまった。
私は先立って降車し、後に続くお母様とお店に足を踏み入れた。
何度味わっても感嘆のため息がこぼれるこの香り…!
「このお店、一番好きなんです。 ケーキの種類もたくさんで――」
うそ……なんだか、険しい顔をしてらっしゃる!
そういえば、お母様の言うケーキ屋さんって、一等地に構える超セレブ御用達のことだったのかな?
お店には悪いけれど、私ごときがお気に入りの超庶民的なケーキ屋じゃご満足いただけない…か。
あぁぁ、私ってば何も考えてなかった。
社長が全然セレブな感じ出さないから、慣れてないの、こういうの。
「お、おかあさ――」
「いいわね。 この香り」
「え――」
「陽葵さんのオススメを教えてくださる?」
気に入って…いただけた…?
「ふふ。 驚いた? 私のような人間は、もっと高いお店に行くと思ったかしら。 少なくとも私や春希は、こういったところの方が身近なのよ。 春希の父親だけは、違うんだけどね」
私が触れなかった部分だ。
春希さんのお母様なのに、苗字が違うこと。
お父様の話題も出なかったし、家族にはそれぞれ事情というのがあるものだから。
「気づいていると思うけれど、私と春希の苗字が違うこととか、話したいこといっぱいあるわね。 ケーキを買って、どこかで落ち着いて話しましょう」
お母様は美しく微笑んだ。