偽りの夫婦
少し位なら、プラプラしていいだろうとその辺をあてもなく歩く。
どうしても、紫龍のことばかり頭に浮かび、何を見ても紫龍のことばかり考える。

「やっぱ…帰ろ……」
力なく、ゆっくり歩いて帰路についた。

マンションの前に紫龍の車が止まっていた。
「え?紫龍…?」
ドアが開いて、紫龍が出てきた。
ゆっくり、こちらへ歩いてくる。

その表情に、陽愛は寒気で身体がガクガク震えた。
真冬の雪山に一人置いていかれたように。

紫龍は真っ黒で重い雰囲気を抱えて、ゆっくり来ている。
闇が近づいているような感覚だった。

「陽愛、おかえり」
陽愛の目の前で立ち止まり、いつもの口調で言った。

「え…」
「何してたの?メールよこさずに……
1時間38分間も…どこで…何、してた?」

1時間38分とは、陽愛が仕事終わってから、今ここに帰ってくるでの時間。
帰るメールはしてないが、毎日何時に終わるのかは、紫龍は把握している。
職場からマンションまで歩いて30分位で、だいたい1時間位プラプラしていた。
だから、そうゆうことだ。

「俺との約束…破ったね……。
さぁ…どうされたい?
監禁?
それとも他のお仕置きにする?」
「ねぇ、紫龍」
「何?」
「監禁されたら、紫龍も一緒に監禁なの?」
「俺は仕事があるから、その間は三好がいるよ」
「じゃあ…監禁やだ。
紫龍が私から片時も放れないなら、むしろ監禁してほしい!」
「陽愛?」

「1時間38分間、ずっと紫龍のことばかり考えてた」
「え?」
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