内緒の赤ちゃんごとエリート御曹司に最愛を刻まれました~極上シークレットベビー~
 午前九時半、祐奈たちを乗せた役場の車が、アスター銀行東日本中央支店に到着した。
「今日はアスター銀行の頭取も出席されるらしい。さすがだよね」
 田原の言葉に少し緊張しながら頷いて、祐奈は車を下りる。とはいっても、今日の取引の主役はあくまでも地権者と天沢ホテルだ。役場側の人間は、取引が無事に成立するのを見届けるだけだった。
 支店に入り要件を告げるとすぐに最上階に案内される。通された広い応接室に大雅はいた。
 一番奥の茶色い皮のソファに座っている。穏やかな笑みを浮かべて、隣に座るでっぷりとした男性と談笑している。
 入室した祐奈たちに気が付くと、よく通る声で挨拶をした。
「おはようございます。今日はよろしくお願いします」
 そして祐奈に視線を送り、小さく頷いた。
 今日の取引に祐奈も出席することは、あらかじめ伝えてあった。それに微笑み返してからなにげなく部屋を見回した祐奈は、ある人物に目が止まり、息を呑んだ。
 大雅の斜め後ろ、秘書の山城と並んで立つ、綺麗な女性だった。
 祐奈の胸が嫌な音を立てはじめる。
 彼女に見覚えがあるような気がしたからだ。
 茶色い綺麗な髪、目鼻立ちのぱっちりした美しい顔立ち、雰囲気こそ少し違っているけれど、二年前に大雅が天沢グループの御曹司だということを祐奈に告げるためアパートへ来たあの女性ではないだろうか。
 役場側のために設けられた席に腰を下ろしても、祐奈は彼女から目が離せなかった。
 その祐奈に女性の方が気が付いた。
 綺麗に整えられた眉を寄せて、訝しむように祐奈を見ている。
 その様子に祐奈は疑念を深めてゆく、やはりあの日アパートに来た女性なのだろうか。
 あの時の祐奈は気が動転して相手の名前を確認せずに、彼女を追い返してしまった。当然、どういう立場の人間なのかということも、知らない。
 女性は射抜くように祐奈を見つめている。
 その視線に祐奈は思わず目を伏せた。
 すると彼女はカツカツとハイヒールを響かせて、祐奈たちに近づいて来くる。そして自然と、立ち上がった祐奈たちに向けて、名刺を差し出した。
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