内緒の赤ちゃんごとエリート御曹司に最愛を刻まれました~極上シークレットベビー~
 案内所に来る客はさまざまだ。迷子、酔っ払い、クレーマー。
 突然訳の分からないことを言われて、嫌な思いをさせられることも珍しくない。
 だから真由香は、奈々美もそのような類の客だと思っていたようだ。
 それなのに、意外にも課をあげて大切にしろと言われていた天沢ホテルの社員だと知り、いよいよ事態が飲み込めなくなっているようだ。
 祐奈は両手をぎゅっと握り、小さく息を吸ってから口を開いた。
「わかりました……すぐに行きます」
「早くね」
 途端に奈々美は踵を返して、案内所を出ていった。
「ゆ、祐奈さん、あの人いったいなんなんですか⁉︎」
 真由香が憤懣やる方ないといった様子で祐奈に問いかける。
「ちょっとね……」
 祐奈はそう答えるのが精一杯だった。
 もちろん祐奈と奈々美の関係をそのまま告げるわけにはいかない。さりとて、真由香が納得するような上手い言い訳も思いつかなかった。
「真由香ちゃん、少しだけお留守番しててくれる? なるべく早く帰ってくるから」
「もちろん私はいいですけど。……祐奈さん大丈夫ですか? 田原課長に私から連絡しておきましょうか」
 真由香が心配そうに祐奈に言う。天沢ホテル側には失礼のないようにと口を酸っぱくして言われている中、社員だという女性がただならぬ様子でやってきたのだ。真由香がそう言うのも無理はない。
 だがそれに祐奈は慌てて首を振った。
「大丈夫、大泉さんとは個人的に知り合いなの。話してみて必要がありそうだと思ったら私から課長に言っておくから……」
 奈々美の話の内容が、大雅と関係があることには間違いない。なにを話したのか田原に尋ねられたりしても答えようがなかった。
「仕事の方に影響があるような話ではないの。だから真由香ちゃん、このこと誰にも言わないでほしいの」
 ほとんど懇願するように祐奈は言う。
 真由香はしばらく考えてから「わかりました」と頷いた。
「でも気を付けてくださいね。なにか困ったことがあるなら言ってくださいよ」
「ありがとう」
 全然納得できないはずなのに、心配までしてくれる真由香に、祐奈は手を合わせてから案内所を出る。
 そして降りしきる雨の中、奈々美が待つ公園を目指した。

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