内緒の赤ちゃんごとエリート御曹司に最愛を刻まれました~極上シークレットベビー~
 幸いにして雨の日の公園は人っ子ひとりいなかった。
 先に案内所を出た奈々美は、ベンチが並ぶ東家の中に立って、腕を組んで待っている。
 綺麗に巻いた明るい色の艶のある髪、いかにも都会的な空気をまとう彼女はやっぱりこの街には不似合いだった。
「お待たせしました」
 東家に入り傘を閉じて祐奈は彼女に声をかける。
「あなたいったいどういうつもり?」
 間髪入れず、鋭い言葉が返ってきた。
「……え?」
「もう大雅さんには会わないでって言ったよね」
 あの取引の場とは別人のような彼女のその剣幕に、祐奈はすぐに応えることができなかった。
 たしかに祐奈はアパートへ彼女が来たそのすぐ後に大雅に別れを告げた。でもそれは彼の正体を知ってしまって、そうするしかなかったからだ。
 彼女に言われたからではない。
 しかもあれから二年経って、大和が生まれふたりを取り巻く環境は変わった。
 祐奈と大雅との間に、たとえ愛情がなかったとしても息子の父母として、会う必要はある。
 でも今彼女にそれを説明する気にはなれなかった。
 なによりも、祐奈への敵意を隠そうともしない奈々美の前で大和の名前を出したくない。
「再会して、焼け木杭に火が付いちゃった? まったく……本当にしょうがないわね、大雅さんったら」
 意味深な言い方をして、奈々美が大袈裟に肩をすくめる。
 胸の奥底から、気持ちの悪い感情がふつふつと湧いてくるのを祐奈は感じていた。
「"やっぱり君が好きなんだ、やり直そう"とでも言われた? ふふふ、一度騙された女はちょろいわね。大雅さんも悪い人」
 桜色の唇から紡がれる耳を塞ぎたくなるようなひどい言葉に、祐奈は身じろぎもできなかった。
 胸の鼓動がまるで警告するようにどきんどきんと嫌な音を立てている。
 これ以上聞いてはいけないと、頭の中のもうひとりの自分が言う。でもどうしてもその場から動けなかった。
 奈々美がにっこり微笑んだ。
「いい? 彼と結婚するのは私なの。大雅さんがあなたにどう言ったのかは知らないけど、これはもう決まっていることなのよ」
 言い切って奈々美は得意げに鼻を鳴らす。その笑顔を見つめながら祐奈は掠れた声を漏らした。
「結婚……?」
「そ。ま、彼くらいの男なら愛人くらいいてあたりまえなのかもしれないけど。きっと大雅さんは、あなたをそうするつもりなのね。今のところ随分お気に入りみたいだし」
「愛人……?」
 おうむ返しにそう呟いて祐奈は視線を彷徨わせる。
 それを奈々美が嘲笑った。
< 117 / 163 >

この作品をシェア

pagetop