内緒の赤ちゃんごとエリート御曹司に最愛を刻まれました~極上シークレットベビー~
 秋の長雨が夜の街に輝く東京タワーを濡らしている。
 天沢ホテル本社ビル最上階の副社長室の窓から、大雅はそれを見つめている。
 ここ数日、太陽を見ていない。だからだろうか、やけに気分が晴れなかった。
 宇月の土地の取引の日に発生したトラブルは、それなりに深刻なものだった。あれから大雅は寝る間を惜しんでトラブルの対応に奔走し、ようやく峠は越えつつある。
 あとひと息というところまできているが、まだ油断は禁物で、もう少し、忙しい日々は続きそうだ。
 今はそのつかの間の休息だった。
 大雅は深いため息をついて、黒い椅子に身を沈めた。
 疲労はピークに達しているが、だからといって責任を放り出すわけにはいかないのがつらいところだった。
 もちろん浮き沈みの激しいホテル業界だから、大雅が副社長になってから、このようなことは何度もあった。だからそれ自体をつらいとは思わない。
 だがとにかく祐奈と大和に会えていないのが、予想以上にこたえている。
 大雅はポケットから携帯を出し、アルバムの中のふたりの写真を開いた。
 キョトンとした表情の大和と、彼を抱く祐奈の笑顔に、大雅の胸が温かくなる。ふたりに会える日を楽しみに、もう少し頑張ろうという力が湧いてくる。
 でもそこで、あることを思い出して、大雅はアルバムを閉じて、代わりにメッセージアプリの祐奈との画面を開いた。
 会えないことを詫びる大雅のメッセージに、祐奈からの短い返事が並んでいる。
『こちらは、大丈夫です。無理しないでください』
『了解です』
 その必要最低限の返信に、どこか違和感を覚えるのは、大雅が疲れているせいだろうか。
 それとも、忙しくて会いに行けないという罪悪感が、そうさせるのだろうか。
 もっとも彼女は、もともとあまりマメにメールをする方ではない。二年前に付き合っていた時も、だいたいは用件のみのメッセージだった。
 だからこれらの返事もものすごく不自然というわけではないのだが……。
 携帯の画面を上下にスクロールさせながら、大雅はしばらく考え込む。
 その時。
 コンコンとノックの音がして、顔を上げた。
「……どうぞ」
 訝しみながら大雅は応える。
 しばらくひとりにしてほしいと山城には言ってある。よほどのことがない限り、来ないはずだ。
「失礼します」
 少し硬い声とともに、ドアが開く。そして入室した人物に、大雅は眉を寄せた。
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