内緒の赤ちゃんごとエリート御曹司に最愛を刻まれました~極上シークレットベビー~
「嘘じゃない。君はもう秘書室の人間ではない、この部屋に許可なく入る権限はないはずだ。それなのに勝手に入ってきたばかりか、あろうことか私の携帯を勝手に操作して、メッセージを削除しようとしていた。ここまでのことをしておきながらまだ会社にいられると思う方がどうかしているだろう」
「でも……!」
 奈々美は反論する。
 そして彼女にとっての切り札を大雅に示した。
「私の父はアスター銀行の頭取です!」
「それがどうした」
 大雅はそれを一蹴する。
 奈々美が信じられないというように首を振った。
「わ、私をクビになんてしたら、父が許さないわ! 宇月温泉進出計画の融資銀行はアスターじゃない。父の機嫌を損ねたら、計画だってダメになってしまうかも!」
 あまりにも幼稚な彼女の言い分に、大雅はため息をついた。
「君は天沢ホテル(うち)に社会勉強をしにきたんじゃなかったのか?」
「……え?」
「いくらなんでもうちのメインバンクがアスターじゃないことくらい知っているだろう? 宇月進出計画からアスターが手を引くなら、すぐにでも別の銀行が手を挙げるさ。そのくらい別館天沢事業は好調だからね。なんなら、お家に帰ってパパに聞いてみるがいい」
「そんな……」
 大雅の口から出る現実に、奈々美は絶句する。
 大雅は、彼女をもはや哀れに思うくらいだった。
「だいたい会社間の取引が、私と君の個人的な出来事くらいで左右されるわけがないだろう。この件は頭取に報告させてもらう。君もアスター銀行の頭取の娘なら、もう少し自覚を持って行動するべきだ。……もう二度と私と祐奈に近づくな。私はビジネスでは私情を挟まないようにしているが、もし今度なにかあれば、アスターと我が社の関係がどうなるかはわからない。そうなれば損害を被るのは、確実にアスター側だ!」
 怒りを込めてそう宣言すると、奈々美は真っ青になって言葉を失っている。
 大雅は、彼女を冷たくひと睨みしてから、山城に視線を移す。
「山城、悪いが後を頼む」
「かしこまりました」
 奈々美を彼に任せると、机の上の鍵と財布を掴んで、副社長室を飛び出した。

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