【完】片手間にキスをしないで
啜られるコーヒーに「熱ッ、」と正面の舌が飛び出す。同時にほんのり赤くなる瞳を見て、途端に居心地が悪くなった。
器量もいい。誠実さもある。それに何より、素直で甲斐甲斐しい。
───あの笑顔を守れる男は、きっと俺だけではない。
奈央は自分自身に辟易した。
しっかりと。夏杏耶に気持ちを伝えたことが、果たしてあっただろうか、と。目の前の、呆れるほど真っすぐな後輩のように。
「冬原さんは……」
「ん、」
「『昔から変わらず』って、どうして好きになったんですか」
黒目がちな瞳が良心を貫く。皮肉にも、相手が悪い。
「聞いても面白くねぇぞ」
「生憎、面白さは求めてないです」
「そうかよ」
「はい」
ハァ───。
漏れたため息に、コーヒーの表面が揺れる。蛍光灯を反射して光るその色は、偶然にも冬の風物詩と重なった。
「チョコレート」
「え?」
「夏杏耶が小4、俺が小5のとき。あいつは、クラスの男子にバレンタインのチョコを渡したらしい」