【完】片手間にキスをしないで


でもきっと、あのバレンタインがなければ、外で彼女に声を掛けることはなかっただろう。


『あぶれたのか、ソレ』


昔ながらも凛々しく佇む駄菓子屋で、妙にしょげたショートヘアが顔をあげた。


約1ヵ月前の傷口が未だ癒えていなかったのか、否か。


『さきに行ってるね!』とイートインへ駆けた友人たちを追いかけもせず、少女はどこか物憂げだった。


『アイス。君だけバニラ』

『あ……うん。そう。じゃんけんで負けちゃって』

『人気だからな。クッキークリーム』


小さな手に乗せられた小さなラクトアイス。


空になったクッキークリームの箱を見つめる瞳は、やっぱり物憂げで。じゃあなぜバニラを買ったんだ、と首を捻った。


バカだし、阿呆だし、なんなんだこの子は───


理由はどうであれ、合理性を欠いた純粋な少女の心に、奈央は足を止めた。これが〝2度目〟だった。

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