【完】片手間にキスをしないで


『貸してみ』

『え?』

『アイス。ほれ』

『……なんで?あげないよ?』

『食わねぇよ』


語尾を少し強めると、華奢な肩がピクンッ、と跳ねる。


当時、背は同じくらいだったはずなのに、やけにか細く見えた。でなければ、場を和ませようなんてしなかった。


そもそも最初から、らしくなかった。(こと)、夏杏耶の前では。


『うちの母さん、不器用なくせに手作りしようとして、いつも失敗して。でも、これだけは上手かった』

『手作り……あ、おかし?』

『そう。まぁ、手作りっつーか……とりあえず、悪いようにはしないから。ほら』

『うん……』


半信半疑。いや、懐疑心の方が大きく占めていたはずなのに、夏杏耶はおずおずとバニラアイスを差しだした。


奈央は蓋を開けると、木べらのスプーンで表面を崩し、買ったばかりの小粒チョコをふんだんに投入した。

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