【完】片手間にキスをしないで


……なんだよ、そんなに美味かったのか。


駄菓子屋を後にして、チョコレートを静かに溶かす。彼女が口に運んだそれを浮かべると、なぜか中心に熱が集まった。



あの笑顔が引き金になったのだと。製菓に進むきっかけになったのだ、と知ったら、彼女はどんな表情(かお)をするだろうか。



夏杏耶が覚えていなくとも、いつかしっかりと伝えたい───お前よりはるかに重く募らせた、甘ったるい気持ちの在処を。



ああ、そうだ。


駄菓子屋の一件がなければ、学年さえ違う彼女を目で追うこともなかっただろう。



3月半ば───件の男どもに呼び出された彼女を、陰で見守ることも。


『なに?どうしたの、奈央』

『……いいよ。お前は先帰っても』

『えぇ……もしかして、あの子のストーキング?最近よく見てるもんね~。物好きだなぁ』


うるさい、黙っとけ。


当時から勘の鋭かった鮎世に釘を刺しながら、塀に隠れて見据えた先。夏杏耶は男数人を前に、しなびた公園の中心に立っていた。

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