【完】片手間にキスをしないで
『この間もらった、バレンタインのお返し』
先に口を開いたのは、あの日廊下で「西名」と呼ばれていた男だった。
『えっ……もしかしてホワイトデーの、』
『うん。お返し』
『ほんと……?! でも、私あんまり上手に出来なくて……』
『そんなことないって。食べたよ、全部』
『あ、ありがとう……!!』
胸の前で手を握りしめながら、嬉しそうに微笑む夏杏耶。
速まる脈が嫌な予感を告げたのは、西名が彼女に〝お返し〟を手渡した後。丁寧にリボンまで拵えられた箱へ視線が集まる。
夏杏耶こそ気付いていなかったものの、取り巻きの男子たちは、笑いを堪えているように見えた。
『開けてみて』
『え、ここで?でも、』
『泉沢さんに、早く見て欲しいんだ。お返し』
男子よりも高い視線が、手元の箱へ落ちる。
『ねぇ、なんか怪しくない?ダメでしょ、開けたら』
『……』
奈央は、後ろで肩を置く鮎世の言葉に眉を寄せる。そして、嫌な予感は的を得た。