【完】片手間にキスをしないで


『ごめん。ハンカチは持ってねぇから』

『……?』


泥にまみれた身体に差しだしたのは、使用済みの体操着。彼女がそれを受け取った後、奈央は西名の拳を片手で受け止めた。


『きたねぇ……ほんと、きたねぇわ。お前ら』

『は……正義気取ってんじゃねぇよ』


正義、ねぇ───


思い伏せながら、目を丸くしたままの夏杏耶を見下ろす。


『目、瞑ってろ』

『え?』

『いいから。10秒』


そして、瞳が体操着に覆われたのを確認した後、奈央は下から拳をふりぬいた。



───『覚えてろよ……ッ、お前ら!!』


言葉通り、10秒後。


夏杏耶を囲っていた奴らは一斉に捌けていった。


『……んだよ、もう十分だろ……放せや』


たった一人───胸ぐらを掴んだままの西名を残して。


『謝って、赦されようなんて思うなよ。そんで一生、こいつには近づくな』

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