【完】片手間にキスをしないで
◇
<今日の夜、ちょっと話せるか?>
家の扉の前で、夏杏耶はメッセージを読み返す。
改まってどうしたんだろう。話って一体。
見当はつかないのに、なぜか胸がざわめく。束ねた髪を撫でる風も、心なしかその不安を煽っているかのように思えた。
「ただいまぁ……」
「おかえり」
い、いい匂い……。
扉を開けてすぐに漂う、コクの深い香り。夏杏耶は緊張感をよそに、ゴクリと喉を鳴らした。
「すぐ飯にするから、準備してこい」
「わ、わかった……!」
「ん」
煮立つ鍋の中を気に掛けながら、流される奈央の視線。
声色はいつも以上に優しくて、むしろ微笑んでいるようにも思えて、心臓はいとも簡単に呻いた。
「やっぱり、エプロン奈央クン……反則だって……」
寝室で部屋着に着替えながら、声を落とす。
最近、あまり一緒に居られなかったからかな、破壊力が余計にすごい……もう、横顔かっこよすぎる。ギャップ萌え……!