【完】片手間にキスをしないで
「……じゃなくて、」
ついつい走ってしまう乙女モードを解除して、呼吸を整える。
奈央クンから話があるんだから、引き締めないと。でもきっと、悪いことなんかじゃない。
だって、今日の奈央クンはとくに穏やかで……料理も私の大好きな肉じゃがだったもの。
そう、思っていたのに───
「夏休みに入ったら、同居は終わりにする」
「……え?」
肉じゃがを食べ終えた後、告げられた言葉に電流が走る。指先まで突き抜けるように走り、顔が熱くなる。
あれ……さっき食べた肉じゃが、美味しかったはずなのに、どうして……。
口の中を占めていた幸せが、跡形もなく去って行く。
代わりに喉を伝って出たのは、精いっぱいの「どうして」だった。
「俺なりに色々考えた。やっぱり、お前はここ以外で暮らすべきだよ」
「……で、もさ、ほら。私のお父さんもお母さんも、今県外で」
「うん。だから……大将に、俺から頼んだ」