【完】片手間にキスをしないで
◇
翌朝。夏休みまで、残り2週間弱。
浮足立つクラスメートの喧騒が籠って響く。夏杏耶は、扉に手を掛けたまま立ち尽くす。
なんだろう、これ。折れないって誓ったはずが、結構ふつうに泣きそうだ。
平気な顔をして、あの家を出てきたはずなのに。今更になって、現実に触れるのが怖くなるなんて。
「よう。何突っ立ってんの?」
「静……おはよ」
深呼吸をする寸前で、降ってきた声に振り返る。そこには朝練終わりの静が立っていた。
「つーか、今日休むと思ってたわ。急に朝練パスとか言うから。体調、もう平気なの?」
「う、うん……もう平気。ありがとう」
「そっか。……で、入らねぇの?」
「は、入るよ。入る入る」
仮病を使って朝練をサボったことが後ろめたくて、勢い任せに扉を開く───と、静は寸前でそれを掴んで止めた。
「え……何?」
「別に。また拗らせてんな、と思っただけ」
「……はい?」