【完】片手間にキスをしないで
重ねるうちにこみ上げる虚しさ。重ねるごとに遠ざかる彼の心。
少しでも好きだって、思ってくれないかな。そう、キスをせがむたびに芽生えていく欲。
なるほど……私の狙いはこれだったか。と、残り数日を切った夜に思い伏せる。
荷づくりに身なんて入らない。キャリーケースにあぶれた小物が、整理できていない心の内を投影しているようだった。
コンコンッ───
ため息を呑み込むタイミングで、寝室の扉が叩かれる。
キィッ、と錆びれた金属音を響かせながらそれを開くと、お風呂上りの彼が立っていた。
薄手のタオルで後ろ髪を拭う様は色っぽくて、少し汗の滲んだ額に触れてみたくなる。
もう見納めだなんて……今のうちに、ちゃんと焼き付けておかなくちゃ。
「どうしたの?」
心の声を悟られないように尋ねると、彼は途端に眉をひそめる。
「荷造り、進んでるか」
「う、うん。それなりに……」
「……ならいいけど」