【完】片手間にキスをしないで
その震えが掴んだ袖口には伝わないように、俯きながら息を吐く。
最悪……最悪だ。今までせっかく、カウントダウンのキスで抑えて来たのに。
「ごめん、なさい……」
でも、そう呟いた瞬間———彼の唇が、震えた言葉を拾い上げる。
吸い上げるように、下から一度。驚いて視線を持ち上げると、優しく触れるだけのキスを、もう一度。
直後、交わった視線が熱くて、夏杏耶は一層戸惑った。
「なんで……?」
「今日の分」
「え?」
「条件、なんだろ」
遠ざけるために、仕方なく。そう繰り返されてきた複数回の、淡々としたキス。
でも今回ばかりは〝はじめの〟を彷彿とさせて、喉が焼けるように疼いた。
「奈央クンは。本当は……」
私のこと、少しは好き?───問おうとして夏杏耶は口を噤む。
「あはは……なんでもない。さっ、お風呂入ってくるね」
「……ああ」
そして、急ぎ足で脱衣所に籠ってタオルに包まった。
「奈央クンの、ばか」