【完】片手間にキスをしないで
視線は逸らすけど、握った手を剥そうとはしない。しかも、バレバレで意味のない嘘までついて。
今日の彼は、本当によくわからない。
「ちゃんと……私、奈央クンの気持ち、ちゃんと聴きたい」
「……言う必要なんてない」
「ある」
「ない」
「あるよっ、奈央クンのばか!」
「ばっ……?!」
ああ、暗がりにも目が慣れてきた。投げかけられたことのない言葉に、彼が動揺しているのがはっきりと分かるくらいに。
音もなく口をパクパクさせていて、新鮮で、愛おしい。
夏杏耶はその動揺の隙に、奈央を引き寄せようと試みる。
「え、あれ……?」
でも、それは叶わなくて。
「非力」
「き、鍛えてるのに……ッ」
「ハァ……あほか」
結局、彼は呆れてため息をつきながら、自分でベッドに腰掛ける。
手を伸ばして肩が少し触れるくらいの、そのもどかしい距離感に、夏杏耶は思わず口を尖らせた。