【完】片手間にキスをしないで


「いくら鍛えたって、そんな細い腕じゃ俺は動かねぇよ」

「……もう少し、近くに来てほしい」

「ダメ」

「じゃあ私が、」

「動いたら退く」

「じゃ、じゃあ……手だけ、握ってていい……?」

「もう握ってんだろ」

「あ……ふふっ、そうだね」


彼の横顔が、月明りに照らされる。漏らした笑みにつられたのか、彼の表情もほんの少し綻んだように見えた。


冷たい……夏なのに、冷たくて気持ちいいな。奈央クンの手。


「奈央クンって、キスが好きなの?」

「……は?」

「今日、たくさんしてくれた、から……」


か細くなる声に、奈央はようやく視線を向ける。瞳孔の開いた瞳はビー玉のように綺麗で、夏杏耶はゴクリと喉を鳴らした。


「だから……そんなにしてねぇよ」

「嘘つき。さっきだって……『ごめん』って、どうして?」


訊ねると、彼は俯き、大きく息を吐く。次にその薄い唇が開かれるまで、夏杏耶はただ待っていた。

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