【完】片手間にキスをしないで


月明かりに当てられた彼の頬は、ほんのり赤く染まっていて。困ったような、そうでもないような、複雑な表情でこちらを見下ろしていたからだ。


これはまさに、奈央クンのレア顔……。


「っ、寝るまで居てやる。それでいいだろ」


見惚れていると、しまった、と言わんばかりに口元を押さえる奈央。


これもこれでかっこいい……。どうしよう、余計に離れがたい。


「奈央クンは……やっぱり私を、遠ざけたい?」

「だからそれは───」

「じゃあ、本当は一緒に居たい……とか」


駆け引きなんて、性に合わないことをやってみる。でもこんな付け焼刃、奈央クンに通用するはずもない。


……だから、ほとんどダメ押しだったのに。


「放したくない」

「……え?」

「どこにも行かせたくない……決まってんだろ」


トン、と肩に落とされる奈央の額。ゆっくり紡がれたその言葉に、夏杏耶はいよいよ涙を零した。

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