【完】片手間にキスをしないで
「奈央クンの答えは、いつも素直じゃない、よね」
グスンッ。鼻をすすると、奈央は驚いた表情で顔を上げる。
「何泣いてんだよ……」
「わかんない……なんでだろう、っ」
頬に触れた彼の手が、伝った涙を拭う。その温度があまりにも優しくて、余計に止まらない。
「奈央クンのことになると、私、感情ぐちゃぐちゃだ」
「なんだそれ」
「それくらい好きなの……大好きなの」
涙に塗れたまま微笑むと、彼は眉を下げながら息を吐く。
「ばーか」
今度こそ『好き』を聴けると思ったのに、やっぱり捻くれてるや。……そっか。奈央クンは、私が思っているよりずっと、不器用だったんだ。
不意に思い伏せた心の声は、なぜかストンと腑に落ちる。
同時に夏杏耶は、彼の唇にキスをした。
「……」
自分からしたのに、どうしてだろう。
チュッ、と響くリップ音が───剥した後で、気だるげに開かれた艶っぽい瞳が、いとも簡単に心臓を貫いた。