【完】片手間にキスをしないで
でも、おかしい。また喉が詰まる。何かが閊えて、吸い込まれる空気が重い。
ただ、スラッと縦に伸びた後姿が格好良くて、胸が鳴くのも同時に感じられるのだから、感情はさらに迷子だ。
「あれ、今日は図書室じゃないのか……」
「いっつも図書室に直行なの?放課後」
「うん……奈央クンはね」
「ま、受験生だしね。今年は」
下る階段。図書室のフロアを通り過ぎ、彼が降り立ったのは1階、調理室の前だった。
「あ……もしかして、」
「何?」
「奈央クンね、月曜だけは絶対図書室に来ないの」
「うん……?じゃあ、毎週月曜は調理室に来てるってこと?」
振り向きざま、怪訝そうに眉を寄せる美々の推理に、夏杏耶はゴクリと喉を鳴らした。
「そういうことに、なるよね」
うん、と無言で頷きあう2人。
柱に身を潜めながら、彼がその部屋に吸い込まれていくのを眺める。
西日が透ける隙さえない、東校舎1階。
かの調理室から漏れた昼白色の光は、妙に目を眩ませた。