【完】片手間にキスをしないで
「ねぇ美々、見える?」
「見えない。足元しか見えない。でも2人ね。それは分かる」
「うぅっ。どうしよう……女の子と2人とかだったら……」
「あー、うーん……女の子、ってゆーか」
「……?」
奈央が調理室に入ってから数分。
夏杏耶は屈みながら、教室の下の小さな引き戸から中を窺う美々の言葉に、首を捻る。
いくら小柄とはいえ、起こした身体はかなりきつそうだった。
「女の人?みたいな」
「え……っ」
どっちにしても女なの……?!
クンッ、と鼻をひくつかせる度に、引き戸の隙間から漂う甘い香り。嗅ぐだけで食欲をそそられるような、甘い香り。
街のクレープ屋が香りを広告塔にして訴求するように、午後4時の腹の虫を刺激する誘惑。
もしかして、奈央クンもこれに誘われたんじゃ……?
「ちょっと、行ってくる」
「は?! 何言ってんのカーヤちゃんっ、ストップ!」
「でも……っ」
「ダメだって。いま行ったら、」