【完】片手間にキスをしないで
「さっ、とりあえず、今日のお喋りはここまでね?」
「ちょっ、先生……!待っ、」
待ってください!私まだ訊きたいことが───そう放とうとした言葉は、どうしてか喉を伝わない。
代わりに、バニラエッセンスを纏った彼の体温が背に触れる。同時に、お決まりの口封じも。
「……だからうるせぇ」
だから、と言われるほど声は通る方じゃない。
今日は図書室でもないのに、骨ばった手がこの口を覆うのは、きっとうるさいからじゃない。
先生に、訊かれるのが嫌なんだ。
「ん゛んんっ!んん!」
「何言ってるかわかんねぇよ……」
奈央クンが塞いでるからでしょ───?!
仕方なく、心の内で叫ぶ夏杏耶。それはちょうど、調理室へ戻っていく百田が振り返ったときで。
「冬原くーん」
「……はい」
「油売ってないで早く戻ってきてね。バター固まっちゃうよ?」
彼女は小首を傾げて言った。
色っぽい、と形容するのがやはり似合う唇に、人差し指を添えながら。