【完】片手間にキスをしないで





午後7時。週初めにも関わらず『さめじま』には人が集っていて。


夏杏耶はその横を通り過ぎながら、部活の名残で「よしっ」と拳を握りしめた。


放課後は諸々あったけど、きっと大丈夫。そう気合いを入れ直しながら。



「ただいまぁ……」

「おかえり」


しかし、早くも固く結びつけた決意が揺らぎそうになる。キッチンから『おかえり』と目配せする彼氏が、破壊力満点だったからだ。


ほんとう……心臓に悪い……。同居が始まってまだ3日。不意打ちの『おかえり』に、馴染めるはずもない。


「奈央クン……ただいまっ」

「なんで2回言うんだよ」

「そこはぜひ、おかえりで……」

「さっき言った」

「ですよね」


ああ。録音しておけばよかった。


妙なところにツボを押されながら、夏杏耶はもう一度拳を握りしめる。


本当は、このまま。機嫌を悪くさせたくなんてないけれど───


「奈央クンって、お菓子作るのが好きなの……?」

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