【完】片手間にキスをしないで

「……バカだな、やっぱ」


彼は視線を落としながら、ククッ、と喉を鳴らした。


「バカになるくらい、好きだもん」

「ああ。知ってるよ」


さっきよりも、いくらか和らぐ声のトーン。同時に、蘇る。


───『知ってたよ。お前が俺を、好きなことくらい』


ちょうど、半年前。彼に想いを告げたあと。震える肩に柔い声が落ちてきて、思わず涙を零してしまったんだっけ。


「気まぐれじゃない」

「え?」

「割と前から……決めてたんだよ。卒業後は、製菓学校に行くって」


降参した、と言わんばかりに、奈央は紡いだ。


「製菓、って……奈央クン、パティシエになるの?!」

「さぁな」

「まっ、また寸止め!」

「つーか飯、作るから退いてろ」


パッ、と放される手。余韻のひとつもなく、彼はキャベツのざく切りを再開した。


でも、まだ───


「……先生」

「先生?」

「私、先生に嫉妬した」

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