シオン
不意に心臓が音をたてる。私は左手を胸の前で握る。
あぁ、やっぱり駄目だ。
離れなくてはいけない。

もう、傍にはいられない。


「…ねえ」と話しかけると「何?」と楓は言う。
「私さぁ、明日から学校休む。」
「急だねぇ」と失笑する楓。「なんで?」と続ける。

言葉に詰まってしまった私は「なんとなく」としか返せなかった。


これしか、方法がないんだ。


「そっかぁ」と楓は少し影のある笑顔で言う。
それから少しして、「そうだ!」と声を上げた。
「学校に来ないっていったって、外に出ないわけじゃないだろ?だったら映画行こーぜ。」

唐突な言葉に私は言葉を失う。
映画のお誘いは素直に嬉しい。本当に嬉しい。

でも、私は楓から離れるために学校を休むと言ったのに。これじゃあ本末転倒じゃないか。


「な?あのアニメ、映画化するしさ!」

本末転倒。でも、最後に思い出を作るくらいなら、許されるかな。

最後に彼を目に焼き付けよう。
いつでも思い出の中の楓に会えるように。

「もう、わかったよ、仕方ないなぁ」と私は返した。こういうやり取りも、もうすぐできなくなると思うと、全てが悲しみの色に染まってしまう。

終わりが来ることに変わりはないけれど、変わりはないからこそ楽しく笑顔で終わりを迎えたい。
彼の言葉の一つ一つを大切に残しておきたい。



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