身代わり政略結婚~次期頭取は激しい独占欲を滲ませる~
「ちょっ……あの、待って」
「どうして?」

 ささやき声とともに、彼の吐息が肌に触れ、いっそう緊張を増していく。

 日常でこんなに甘い雰囲気になることに慣れてないから……。

「し、心臓が……おかしくなりそう」

 ぽつりと心の声を漏らすと、成さんがクスリと笑った。

「うん。わかる」

 同調されて私は目をぱちくりさせる。

 いくら『わかる』って言ってくれたって、私を気遣ってくれただけで、成さんが同じ状況なわけがない。

 成さんは、出逢った時から冷静で落ち着いていて、相手を配慮する余裕を持ち合わせていたもの。

 デートをしていても常にリードしてくれて、イレギュラーなことが起きたって広い心で受け入れてくれる。

 完全に優しさから言ってくれたもの、と思い込んでいたら、ふいに右手を掴まれた。
 成さんはそのまま私の手を自分の心臓の位置へと持っていく。

 手のひらには、私と同じくらいのテンポで脈打つ鼓動を感じた。

「ほら……ね?」

 はにかむ成さんを見て、信じられない思いになる。

 だけど、本当にドクドク鳴ってる。
 傍目では平然として見えるのに。

 成さんは私の頬を掠め、耳打ちする。

「本当……幸せでおかしくなるね」

 刹那、背筋がぞくっとして胸の奥がきゅうっと鳴った。

 成さんは私の両目を覗き込み、柔らかく細めた後に唇を奪った。

 動悸がすごすぎて、息すらままならない。
 酸欠になる前に、成さんは距離を開けていく。

「……身体つらくない? 今日はなにもしないから。その代わり、抱きしめて寝てもいい?」

 この人には到底敵わない。

 その夜、成さんは宣言通り私を抱きしめて寝ていたけれど、私はドキドキしすぎてなかなか寝付くことができなかった。
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