身代わり政略結婚~次期頭取は激しい独占欲を滲ませる~
「よかった、追いついて。お帰りのところ、呼び止めてしまってすみません。ご挨拶でお忙しそうだったので、後でゆっくりと思っていたらこのようなかたちになってしまって」

 髪はツーブロックで気さくそうな雰囲気の男性は、名刺を取り出して成さんに渡す。

machila(マチラ)コーポレーションの紀成(きなり)剛士(つよし)と申します。いつもお世話になっております」

 マチラ……って、大手通信サービス企業よね。
 確か、代表取締役の方も紀成だったはず。だとしたら、この男性って……。

「いづみファイナンシャルグループいづみ銀行本店の鷹藤です。紀成……と仰いますと、社長のお孫さんでいらっしゃいますか」
「はい。父はグループのコンテンツ事業のほうにおりまして、僕は先日から孫会社のマチラモバイルに配属されました」

 やっぱり! 彼は紀成社長のご令孫なんだ。

 マチラコーポレーションとは、うちも取引があったはず。
 彼がモバイル事業だというのなら、もしかしたら今後私も仕事上、顔を合わせる機会もあるかもしれない。

 挨拶したほうがいいかな、と思ったものの、今日はオフで名刺もないし、ふたりの間に自分から話に割り込むのも失礼だと考え、そわそわしていた。

 そこに、遅れてやってきた女性が剛士さんの横に並んだ。
 女性はたおやかにお辞儀をして、艶やかな唇に上品な笑みをたたえる。

「初めまして。紀成夕花(ゆうか)でございます。私の父は本社にて代表取締役副社長をしております。どうぞお見知りおきくださいませ」

 夕花さんは姿勢はもちろん、顔立ちも美しい人だった。

 すらりとした長身のスタイルは、私と違って大人の女性という感じ。私より年上なのかもしれない。

「彼女と僕は従兄妹なんですよ」

 従兄妹なら、私と友恵ちゃんみたいな感じよね。
 ふたりとも美男美女だし、並んでいたら存在感が増す気がする。

 ふいに剛士さんと視線がぶつかった。私は慌てて会釈で返す。

「あ、失礼しました。お連れ様が……?」
「彼女は時雨ホールディングスのジョインコネクトに勤務している時雨梓さんです」

 成さんがごく自然に紹介してくれたので、挨拶がしやすくなった。
 私は笑顔を向け、お辞儀をする。

「初めまして」

 姿勢を戻すと、成さんに言われた。

「すまない。もう少し待っててもらえる?」
「ええ」

 成さんと剛士さんが再び話を再開し始め、私は夕花さんとふたりでなんとなく気まずくなる。

 仕事中は意識を切り替えているし、いつでも心の準備をしているから初対面の人ともどうにか会話が弾むけれど、今日は急な出来事でまだスイッチが入り切れていない。

 しかも、仕事繋がりではないとなれば、会話の内容に悩んでしまう。

 私が会話の糸口を探っていると、先に夕花さんに話しかけられた。
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