身代わり政略結婚~次期頭取は激しい独占欲を滲ませる~
「あ、どうやら話が終わったみたいね」

 夕花さんの声にはっとして、顔を上げる。
 成さんが剛士さんと並んでこちらに歩いてくるのを見て、無性に焦りを感じる。

 夕花さんはすっと立ち上がり、私を見下ろして言った。

「さっきのお話だけれど、私は私でこれから鷹藤様との距離を縮める努力をさせていただきます。鷹藤様がお決めになるのなら、問題ありませんでしょう?」
「え……」
「くれぐれも公正に勝負してくださいませ」

 勝負って……。

 私は夕花さんの宣言に狼狽えるだけで、彼女を説得する余裕もなかった。

「時雨さん、お待たせしてしまい申し訳ありませんでした。鷹藤さん。今後とも、よろしくお願いいたします。ではまた」

 気づけばもう成さんが私のもとへ戻ってきて、剛士さんと別れの挨拶を交わしていた。私はおどおどと頭を下げる。

 やおら目線を上げていくと、夕花さんが去り際に笑顔を残していくのが見えた。

「梓、ごめん。行こうか」
「はい……」

 いったい、この短時間でなにが起きたの。

 心地が悪くて、歩いていてもなんだか足が地についていないような不安感がある。

 ホテルを出てすぐ、タクシーに乗り込む。
 成さんは運転手に行き先を告げ、改めて私を見つめてきた。
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