身代わり政略結婚~次期頭取は激しい独占欲を滲ませる~
「梓? どうかした?」
「い、いえ。なにも」

 水が入ったグラスを引き寄せ、目を落とす。
 水面の揺れが落ち着いた頃、思い切って話題にした。

「さっきご挨拶したおふたり……私とそう変わらない年齢のように見えましたけど、とてもしっかりされていて驚きました」
「そうだね。基本的には年上の人たちと触れ合う機会のほうが多いから、俺もちょっと新鮮だったかな」

 成さんの反応は、ロビーに来る前まで夕花さんと特別なにかあった素振りはない。
 ということは、彼女は今後、成さんと接点を作ろうとしてる……。

 もちろん、私にとっては不穏分子。
 どうにか止められるものなら、そうしたい。

 でも、彼女は正々堂々と私に宣戦布告をした。

 だったら私は、彼女の接触を過剰に警戒して、未然に防いだりしてはいけないのでは……?
 私が邪魔をしたところで、おそらく夕花さんは納得しない。
 成さんだけが彼女を納得させられる。

 そして、選ぶのは成さん本人だ。

「梓? やっぱりなにかあった? さっきからぼーっとしてる」
「あ! あまりに素敵な場所なので、つい」

 どうにかごまかして返したら、成さんはうれしそうに口元を緩めた。

「それなら、最後まで楽しみにしてて」

 それから次々と提供される料理の数々は、成さんの言葉を裏切らず、どれも芸術作品みたいで最高に美味しかった。

 デザートも普段あまり見ない、タルトの上に球体のケーキが乗せられたスフェールというもので上品な味わいだった。

 最後にコーヒーが出された時にも、ミニャルディーズ――いわゆる食後の小菓子で、ボンボンショコラが添えらえていた。

 私はすべて完食して、ほうっと息をつく。
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