身代わり政略結婚~次期頭取は激しい独占欲を滲ませる~
「俺はすぐにでも一緒に――」
「ごっ、ごめんなさい」

 私は堪えきれなくなって、成さんの声を遮って頭を下げた。
 下を向いたまま、懸命に率直な気持ちを伝える。

「その……今すぐはちょっと……。具体的な時期は、もう少し考えさせてください」

 彼を好きになった今、プロポーズは喜ばしいこと。
 ……のはずが、どうしても心から『うれしい』と伝えられない。

 手放しで喜べないのは、彼女に枷をつけられてしまったから。

 唇を噛んで気まずい空気に耐え忍んでいたら、数秒して成さんの柔らかい声が耳に届いた。

「わかったよ。どうやら俺が先を急ぎ過ぎたみたいだ。でも、これは受け取ってくれるよね?」

 申し訳ない気持ちでいっぱい。

 すっと顔を上げられずにいたら、いつの間にか席を立っていた成さんが、私の左手を掬い上げた。
 そして、薬指に指輪をつけてくれる。

 私は視界に入るところまでやおら手を動かし、ぴたりとはまった指輪をじっと見る。

「サイズ……」

 違和感がないほど、ぴったり。

 成さんの顔を窺うと、彼はばつが悪そうにはにかんだ。

「梓が寝てる間にちょっと……ね」

 そこまでして用意してくれたのに、私はひどいことをしてる。

 自分で自分が嫌になる。しかし、彼を本当に好きになったからこそ、不安な気持ちに妥協して受け入れたくはない。

 自分がひと目惚れされるなど考えられないと思いつつ、自身は成さんに第一印象から惹かれていた。
 その矛盾にずっと引っかかりながらも、私は突き詰めて考えてこなかった。

 単純な話。出逢って間もないうちから惹かれる理由の大部分は、見た目や雰囲気の印象だ。
 成さんは容姿端麗でとても優しい。私でなくても惹かれる人は多いに決まってる。

 では私は?
 彼が完璧すぎるが故、私は自分に自信が持てていない。

 特段秀でた才能もない。
『時雨』の名前だって、別に私がすごいわけじゃないし、本家の友恵ちゃんと比べられたらやっぱり〝私じゃなきゃだめ〟なことって……すぐに浮かばないから。

 早くこの劣等感をどうにかしなきゃ。
 私は逸らしていた目を成さんに向け直し、まっすぐ見つめた。

「……大切にします」
「うん。じゃあ、帰ろうか」

 成さんはいつも通り笑顔でいたけれど、私は彼が優しくしてくれるたびに心が苦しくなっていた。
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